スズキ図書館

最近読んだ本の内容を紹介する書評ブログです。ビジネス書が中心です。これから皆様が読む本を選ぶ際の参考になれば幸いです。

【書評】「非認知能力 -概念・測定と教育の可能性-」小塩真司(編)

こんばんは、スズキです。
今日は「非認知能力 -概念・測定と教育の可能性-」小塩真司(編)を紹介します。

概要

 昨今、世の多くの保育や教育の場で「非認知能力」について言及、またそれを高めようとする実践活動が行われるようになってきていますが、一方で「非認知能力」とは何か?どのように測定するのか?どのように教育的介入が可能なのか?あまり明確ではない状況ではないでしょうか。
 本書では非認知能力、あるいはそれに類するものとして取り上げられることの多い15の心理学的特性に注目し、①その心理学的特性はどのような概念か②どのように測定するのか③人為的な介入や環境の変化によってどのくらい変容する可能性があるのか、そして教育に対してどのような示唆が与えられるのかを紹介しています。「非認知能力」という言葉の中に含まれる多様性や複雑さの理解と、教育や保育の可能性に関する思考の深化を促してくれる一冊です。

著者

【Amamzonより引用】
・小塩真司(おしお あつし)。早稲田大学文学学術院 教授。2000年,名古屋大学教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育心理学)。専門はパーソナリティ心理学,教育心理学,発達心理学。著訳書は『性格とは何か』(中公新書),『性格がいい人、悪い人の科学』(日本経済新聞出版社),『パーソナリティ心理学』(サイエンス社),『性格を科学する心理学のはなし』(新曜社),『大学生ミライの因果関係の探究』(ちとせプレス),『心理学の卒業研究ワークブック』(共著,金子書房),『人間関係の生涯発達心理学』(共著,丸善出版),『円環モデルからみたパーソナリティと感情の心理学』(共訳,福村出版),『パーソナリティのダークサイド』(監訳,福村出版)など多数。

私の学び

 本書では主に保育や学校教育といった場の子どもを対象・例として、非認知能力と類する15の心理学的特性について説明をしていますが、これは主語を大人、場をビジネスや実社会に置きかえてみても納得感のある論だと感じました(そもそも心理特性なので大人も子どもも程度の差こそあれ当てはまるのは当然だと思いますが)。
 ビジネスの現場では実務直結の能力(グリッド、批判的思考、レジリエンスなど)ばかりに光があたりがちな気がしますが、自分自身の長所や短所を見つめなおすとき、あるいは職場の上司や同僚、部下に対して相手の特長をとらえて何か助言や示唆を提示する必要があるときなどは特に、非認知能力の質的な多様性を理解したうえで能力を評価し、ステップアップの道筋を考えることが大切だと感じました。

【本書より引用】
・非認知能力に類する15の心理学的特性
 1 誠実性:課題にしっかりと取り組むパーソナリティ
 2 グリット:困難な目標への情熱と粘り強さ
 3 自己制御・自己コントロール:目標の達成に向けて自分を律する力
 4 好奇心:新たな知識や経験を探求する原動力
 5 批判的思考:情報を適切に読み解き活用する思考力
 6 楽観性:将来をポジティブにみて柔軟に対処する能力
 7 時間的展望:過去、現在、未来を関連付けてとらえるスキル
 8 情動知能:情動を賢く活用する力
 9 感情調整:感情にうまく対処する能力
 10 共感性:他者の気持ちを共有し、理解する心理特性
 11 自尊感情:自分自身を価値ある存在だと思う心
 12 セルフ・コンパッション:自分自身を受け入れて優しい気持ちを向ける力
 13 マインドフルネス:「今ここ」に注意を向けて受け入れる力
 14 レジリエンス:逆境をしなやかに生き延びる力
 15 エゴ・レジリエンス:日常生活のストレスに柔軟に対応する力


・(グリッド)第一に、教師や管理職がグリッドの概念を深く理解することが重要でしょう。第二に、子どもの「達成したい」「達成できる」という気持ちを育むことも大切でしょう。第三に、個性や願いを育むことも重要かもしれません。第四に、学校や家庭の目標構造も重要でしょう。

 

・(批判的思考)第一に、批判的思考のスキルや態度を授業において明示することです。第二に、まずは教師が批判的思考についてよく理解することです。

 

・(レジリエンス)たとえば、試験という逆境状況において「寝る間を惜しんで取り組み続ける」子どももいれば、「気分転換をしながら気持ちを安定させることを優先する」あるいは「この科目はできなくても大丈夫」という考え方で乗り切る子どももいます。逆境状況を乗り切る力という意味では同じでも、その在り方は異なり、単純に比較できるものではありません。したがって、レジリエンスの「望ましい姿」に向かうための教育を行うのではなく、各人のレジリエンスの在り方を尊重し、それを拡げたり、発揮できたりするような働きかけをしていくことが重要であると言えます。